第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
それからだ。
白髪を見られぬようにと白藤は家の中でも被衣(かづき)を脱ごうとしなくなったのは。
「白藤……」
「お兄様……」
「最近、無理をしているのではないか?」
「大丈夫、です……」
青い彼岸花の薬を飲むようになってから、白藤は日に日に寝込むようになってきていて。
ともすれば、舞山よりも床についている時間が長引いてきていた程に。
故に、舞山は不安になった。
産屋敷の主力から外された舞山はもう身内と呼べる存在が近くにいなかった。
世話をしてくれていた側妻の榊は先日、肺の病でこの世を去った。
その事実を舞山はまだ白藤に話していない。
それを知れば彼女まで失うかもしれないと心のどこかで思ってしまったからだ。
そう、舞山は不変を望んだのだ。
陰陽師が世直しをする時世。
舞山が興味を持ったのは、かの蘆屋道満(あしやどうまん)であった。