第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
陰陽師として名を馳せている人物は三人居る。
賀茂忠行、安倍晴明、蘆屋道満。
とはいえ、賀茂忠行は少し前に病に倒れたと聞く。
彼の後継である嫡男、賀茂保憲は暦を作る才はあれど、修祓や占術は得手ではなかったと聞き及んでいる。
となれば、残る有力株は安倍晴明か蘆屋道満。
安倍晴明は天狐の産み落とした異形の子と名高いことで知られている。
幼き頃より才覚を現し、何より霊力の強いことで有名である。
対する蘆屋道満はと言えば、播磨国(はりまのくに)の陰陽師の里から出てきた云わば陰陽師の期待の星。
両者共に才能も実力も折り紙つき。
それでも二人の関係はまるで『陰』と『陽』の様に対極的だ。
『陽』が安倍晴明、『陰』が蘆屋道満。
安倍晴明が左大臣である藤原道長に重用されていることも知っているが。
舞山自体、道長の事をよく思っていない。
だからこそ、彼とは反する流派である蘆屋道満に舞山は惹かれた。