第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
こうして、二人の生活は始まった。
「白藤」
「はい。お兄様」
舞山の呼びかけに笑顔で応える。
「お兄様はやめなさいと言っただろう」
「表ではですよね。家ではこのままでも」
舞山が否やを唱えるも、白藤は堪えた風もない。
「この屋敷には下男と下女がいない。家事がお前任せになってしまうが、くれぐれも無理のないように」
「大丈夫ですよ、お兄様」
私が舞山様をお兄様と呼ぶのは尊敬からで。
きっとお兄様もそれを分かっていて下さると子供のように思っていた。
無惨が月に三度、薬師を迎えるようになってから。
蘭学に特化した薬師が現れると状況が変わり始めた。