第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
内裏というのは主に陰陽師や官僚達が政(まつりごと)をする場で。
舞山様は文官を任されているとのことだった。
産屋敷家は代々名家として藤原氏と共に栄えたお屋敷だ。
ただ、表の政をする藤原氏に対して、産屋敷家は陰陽師や神職など、主に裏の政を取り仕切る家柄であった。
いずれは舞山も神職にと期待されていたらしいのだが、彼は幼い頃から身体が弱く、倒れることも多かった為、次第に周囲の期待も薄れてきていた。
内裏に文官として参上するのも、そういった経緯からである。
どちらも立派なお役目なのに、何でそんなに舞山様を蔑(ないがし)ろにするのか白藤はそんな不条理を憂いていた。
数年後のある日。
舞山が熱を出して、邸で倒れた。
その際に直ぐに動いたのは白藤だった。
幼少の頃から勤めていた側妻(そばめ)が長患いに罹(かか)り、無惨の側仕(そばづか)えを決めようとしていた時だったので、その時の白藤の働きを見て、その代の当主が指名したのだ。
「舞山の側仕えは白藤。舞山個人の邸の一切も取り仕切って貰うからね」
「はい、仰せつかりました」