第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
「初めまして、舞山様」
その薬師は西洋朝顔をもとに様々な薬を考案してきたやり手で。
舞山の体に合うものをと、薬師はあらゆる材料を使い薬を持って来た。
ただ実例のない薬が人体にどういった影響を与えるのか分からなかったために、薬師が白羽の矢を立てたのが白藤だった。
「もし、白藤様」
「あら、薬師様」
白藤はその頃歳が十五。
良い縁談話があれば嫁に出してもおかしくない年頃の少女だった。
濡れ羽色のたおやかな黒髪は彼女の自慢だった。
それは敬愛する舞山から褒められた数少ない自分の取り柄だったからだ。
髪は黒い程美しいと言われていた時代だからこそ、舞山の薬代に金子(きんす)が足りぬ際は自慢の髪をこっそりと売っていたほどだ。
何か少しでも役に立ちたい。
それは彼女の本心だった。