第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
何故……
白藤は記憶を遡る。
数百年前の出来事だ。
継国兄弟と出逢うよりも、もっと以前に。
私はこの男と会っている。
「白藤………」
白藤は白昼夢の中にいた。
「お兄様、お帰りなさいませ」
「ただいま、白藤」
墨染めの衣を纏い、烏帽子を被っているこの方が私のご主人様である産屋敷舞山様。
「体調は如何ですか?どこか具合がお悪いようでしたら、薬師様を……」
私はこの屋敷の使用人の女房として奉公に来ているのだ。
「大丈夫だ。心配せずとも良い……」
私は八つの頃からこちらにお世話になっている。
舞山様とは歳が三つ違い。
私がこのお屋敷に来た時に元服が執り行われ、舞山様は内裏(だいり)へ出仕(しゅっし)するようになった。