第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
「化け物がァ……」
不死川が悔しげに舌打ちする。
兄ちゃんばっかりに頼るのは、やめたんだ。
俺も、ちゃんと、自分で動く。
「お前は母さんと兄妹たちの仇だ!!」
玄弥はそう言い捨てて、南蛮銃を構え、無惨に向けて散弾する。
「しつこい」
無惨の一言と同時に散弾として撃ち込まれた玄弥の銃弾は鞭の様にしなる腕によって跳ね返された。
その跳ね返された弾丸を玄弥に届かぬようにと不死川の風がそれを防いだ。
「風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐!!」
辺りを突風が駆け抜け、弾丸も、こちらに伸びてきていた無惨の腕すら軌道を変えた。
だが、無惨はそれに構いもしない。
興味を示さないのだ。
「お前たちはしつこい。会えば親の仇、兄弟の仇と馬鹿の一つ覚えのように喚き散らす」
「あァ?」
不死川の額に青筋が浮き出る。
「お前たちは生き残ったのだからそれで充分だろう」
無惨のこの一言がその場にいた全員の神経を逆撫でさせた。
「お前……何を言ってるんだ?」
普段温厚である炭治郎でさえ、暗澹(あんたん)さを醸し出す声を出したほどだ。
鬼とは相入れない。
そもそもの価値基準が違うのだ。