第72章 邂逅、別離
ザッ。
体が重い。
視界が霞む。
白藤は何処だ?
彼女を守らねば。
バタ……
ダメだ。
体が動かない。
冨岡は視線を巡らせる。
白藤が何かを抱えている。
大事そうに何かを呟いている。
彼女の腕の隙間から見えた黒い頭髪を見て冨岡はようやく合点がいった。
あぁ、先程彼女が駆けて来たのは別れの為だったのだ。
ようやく彼女も想い人に逢えたのだ。
何処か他人事に思えるのはきっと俺と彼の面識が無いからだ。
その名を知らないからだ。
「巌勝、様……」
彼女が彼の名を呼ぶ。
まるで彼岸へ行くなと縋るように。
こんな彼女のか細い声を、嗚咽混じりの声になりきらない嘆きを、今まで聞いたことがない。
冨岡は白藤に抱かれている彼に視線を向ける。
もし、倒れていたのが彼ではなく、自分であったなら、白藤は同じように泣いたのだろうか?
「………」
ダメだ、意識が……