第72章 邂逅、別離
巌勝の頸をかき抱いて白藤は涙を流す。
「………泣くな」
「無理を、言わないで下さい……」
「俺は、痣者だ。どうあったとしても、お前よりも早くあの世へ逝く……」
「存じておりました。でも、何故……」
分かっている。
たらればを口にしたとしても、彼の現状は変わらない。
今ここにいる巌勝は黒死牟として、鬼狩りに頸を斬られたのだから。
こうして言葉を交わせるのも、残りわずか。
「お前は変わらない、な……」
「いいえ。変わりました……。沢山……。いつか……貴方に、会えたなら、いっぱい話を……」
涙で前が見えない。
巌勝の顔が、歪んで、いく。
「そう、か……あの頃とは……違う、か?」
「………はい。だから、私は、貴方を赦しません。勝手に鬼になった貴方を、忘れません、から……」
「…………相変わらず、頑固だな。白藤……」
「巌勝、様……巌勝様……貴方は馬鹿です。私の名など……忘れていれば………」
「お前も、だろう……?白藤……」
嘆かわしい。
もう、この娘の肩を抱いてやることも出来ない。
「赦して、くれるな……俺も、お前を、忘れない……」
まるで桜の花弁のように、
巌勝の頸は、泣き別れとなった体と共に消え去った。
「巌、勝様……」