第72章 邂逅、別離
はっ、と我に返ったら、玄弥は自分が白藤に噛み付いていたことを自覚した。
バッ。
何とか体を離す。
「不死川弟!!」
「え!?冨岡さん!?」
目の前に現れた冨岡に驚く玄弥。
「白藤、怪我は!?」
「駄目ですよ、義勇さん。アチラに戻って下さい」
「しかし………」
「お願いです、義勇さん」
「っ……」
冨岡さんの顔に初めて人間の感情を見た玄弥は目を見張った。
こんな表情(かお)するのか。
いつもの冨岡からは想像出来ない、余裕のない表情だ。
「私は心配ありません。それよりも、あの人を、あの鬼を倒して下さい……」
「…………それで、いいのか?」
「はい。私の想い人は…貴方だけです」
「………分かった」
再び前線へ向かう冨岡の背を見送って、白藤は隣りに居る玄弥に声をかける。
「玄弥君」
「何ですか?白藤さん」
「一つ、お願いがあります」
「お願い、ですか?」
「えぇ。今の戦闘、数は圧倒的に鬼殺隊が有利なのに黒死牟の首を斬れない膠着(こうちゃく)状態です。ですから……」
『囮(おとり)になってもらえますか?』