第72章 邂逅、別離
「藤姫……」
彼女はあの日から抜け殻になってしまった。
いや、以前の彼女に戻ったというべきか。
表情が無く、口元だけに笑みを浮かべる彼女。
精彩を無くした瞳はいっそ未亡人のようにさえ見える。
「縁壱様?」
「すまない。隣りは空いているか?」
「えぇ、どうぞ」
藤の屋敷の離れの縁側に腰掛け、月を眺める彼女の隣りに腰を下ろす。
「月は美しいですね。私は陽の光を浴びられないので、月は私の中では太陽の代わりです」
それを聞いて、あぁと納得した。
そうか。
彼女にとっての兄上は、太陽だったのだ。
だが、彼女を照らしてくれる月はもう居ない。
「兄上のこと、すまない……」
縁壱は頭(こうべ)を下げた。
「いいえ、縁壱様。頭をお上げ下さい」
「…………」
「貴方の顔をよく見せて下さい……」