第72章 邂逅、別離
白藤は巌勝の剣技が好きだった。
縁壱と同じ技を使えなくとも。
例え体を重ねるだけの関係性でしかなくとも。
彼の傍に居て、その技を見るだけで良かった。
縁壱も口数は少なかったが、巌勝もあまり多くは語らないのだ。
話題になるものは少なかった。
だが、外の世界を知らない彼女には尚更分からないことが多く、彼等から聞く話が物珍しいと感じる程だった。
「巌勝様、縁壱様。おかえりなさいませ」
「白藤。今帰った」
「まぁ、巌勝様。頬に傷が……」
「大事無い……縁壱、何だ?」
「いえ、何も……」
「縁壱様、巌勝様。ご無事で何よりです」
「あぁ……」
兄上はもう少し自分に向けられる好意を受け止めればよろしいのに。
そうであれば、彼女も……
「縁壱様。羽織が解れています。手直し致しますので、お貸し下さい」
「すまない。頼めるか?」
「はい」
彼女は優しい。