第71章 残荷、陽炎
恋雪の遺体を抱きながら泣く狛治に藤の花屋敷の医師が声を掛ける。
遺体を弔いましょう。
狛治は首を左右に振る。
それを受け入れられずにいる。
白藤はその光景を少し羨ましいと思いながら眺めていた。
人の『絆』が見えた気がした。
どうか彼に再びの縁があることを白藤は願った。
その夜、狛治が鬼舞辻に会い、絶望から鬼になる事を選んだことを彼女は知らない。
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「義勇さん!」
飛ばされた先で、壁への激突の衝撃から白藤を守った冨岡が意識を飛ばしてしまった。
白藤が懸命に呼びかけるも、冨岡は動かない。
どうすれば、いいのだろう。
今、上弦に遭遇したら……
白藤の指先が強ばっていく。
体の中が冷えていくような。
悪い予感がする。
「何してるの?」
扉から出てきた時透の姿を見て、白藤は胸を撫で下ろした。
味方でよかった。
だが、通路の奥から気配が近づいて来る。
危険を肌で察知できるほどの強大な気配。
でも何故だろう。
何か、おかしい。
その奥から近づいて来る者の気配に白藤は覚えがあったからだ。
ー了ー