第71章 残荷、陽炎
道場主の息子は素流道場への関わりを今後一切中止されるも、恋雪への想いは募るばかりだったようで。
誰かが彼に吹聴したのだ。
井戸に毒を入れろと。
どうせ叶わぬ恋ならばと。
道場主の息子はその言葉通りに素流道場の井戸に毒を入れた。
それを知らず、恋雪と父親は水を飲んで毒が体に回った。
不在だった狛治だけを除いて。
恋雪は倒れ、狛治の助けを待つ以外なかった。
意識の朦朧とする中、狛治が自分を連れて走っているのが分かった。
行き先がどこなのか。
何故走っているのか。
恋雪は懸命に駆ける狛治の顔を眺めた。
この人と添い遂げたかった、と。