第71章 残荷、陽炎
彼は誠実だった。
恋雪の苦手意識も徐々に消えた。
それどころか、彼に惹かれていくようになった。
恋雪はいつしか狛治に想いを寄せるようになった。
父親を亡くしたということもあってか、狛治は少々表情の機微が小さかったが、恋雪は気にしなかった。
父親に狛治が好きだと告げた時、俺もだと共感されたのが嬉しかった。
その頃から少しずつ隣の道場からの嫌がらせが始まった。
恋雪は不穏を感じながらも、狛治の傍を離れなかった。
少しして、隣の道場主の息子が、狛治に試合を申し込んだ。
結果は狛治の勝ち。
文句の付けようのないくらい、流麗な動きで、狛治の蹴りが彼の腕を薙ぎ払ったからだった。