第71章 残荷、陽炎
泣かないで、狛治さん。
そう伝えたいのに。
あぁ、もっと伝えたいことがあるのに。
言葉にならない。
視界が涙で滲んで、貴方が見えない。
私は貴方が好きだった。
その気持ちに嘘はない。
ただ、もう時間が無いらしい。
恋雪は懸命に言葉を紡いだ。
狛治には感謝している。
恋雪は家族以外に信頼できる相手が居なかった。
狛治を迎えた日も、本音では悩んでいた。
隣の道場主の息子に好意を寄せられ、思いを告げたいと呼び出された時に門下生数人に取り囲まれて怖い思いもした。
恋雪にとって男性は父以外信用出来ないものだった。
だが、狛治に出会った。