第71章 残荷、陽炎
そして。
「………狛治さん」
血を吐きながら、恋雪が何かを伝えようとする。
「恋、雪……」
狛治はどうにも引きつった声音しか出せなくて。
彼女の弱々しい声が。
徐々に冷えていく彼女の命の灯火が、失われていくようで。
それをまざまざとつきつけられているようで。
「あり、がとう……」
「………っ…!!」
涙が止まらなかった。
何とか何かを伝えようとしても声には出来なかった。
ただただ咽(むせ)び泣く狛治の頬に恋雪が手を伸ばす。
「生き、て……」
「…………恋雪……」
狛治は愛しい彼女の名を呼ぶ。
悲しみに震えながら。
絶望に打ちひしがれながら。
白藤は屋敷の中から医師を連れて来たが、彼女はもう息を引き取っていた。