第71章 残荷、陽炎
そんな時、誰かが呟いた。
『不殺の御子(コロサズノミコ)』
噂ではあるが、その女性は怪我や病気を不思議な力で癒す力があるとの事だった。
まだ体の温もりがある、今の内なら。
恋雪だけでも助けたい。
結婚すると約束したんだ。
その報告をしたくて、親父の墓参りに行ったんだ。
その隙をつかれた。
犯人はきっと隣の道場主の息子に違いないが、今はとにかく走るしかない。
藁にもすがる思いとはこの事か。
せめて、恋雪だけでも。
助けたい。
助けて欲しい。
ドンドン。
『不殺の御子』がいるとされる藤色の家紋の幕を付けた屋敷の門扉を叩く。