第71章 残荷、陽炎
娘は体が弱くてなかなか外に出歩けなくて、俺はその娘の世話を頼まれた。
娘の名前は恋雪(こゆき)と言った。
俺は親父を看病していた時のように、恋雪の世話をした。
髪を洗ったり、体を吹いてやったり。
そう、他愛のない話をしながら、慎まやかに暮らしていた。
体調が良くなった恋雪と花火大会に出掛けた時、来年も観られたら良いと彼女が言ったから、俺もまた来年があると信じていた。
満ち足りていたんだ。
本当に。
だが、ある日。
その日常は崩れ去った。
『誰かが井戸に毒を入れた!!』
狛治の幸せは手の内から零れてしまった。