第69章 向かう先に
「……白藤」
急に動いたと思ったが、まさか槇寿郎の頬を叩くと思っていなかった冨岡は白藤の行動を止められなかったことを後悔した。
元柱に対しての狼藉とは最悪だ。
どのような沙汰が下ってもおかしくは無いと内心ヒヤリとしたが、槇寿郎は声も発せず、微動だにしない。
さすがは元柱。
この程度では動じないとのことだろうか。
「………全く、そなたには……いつになっても適わぬな……」
困ったように、薄く唇に笑みを浮かべる槇寿郎の様子に冨岡をはじめ、一同が驚愕した。
あの厳格な父上が頬を叩かれても声を荒げないとは……
藤姫の、白藤の存在は他とは違うのだと、認識を新たにした。