第69章 向かう先に
「槇寿郎様……」
相変わらず、貴方は優しいままなのですね。
「それに俺の剣先は随分と鈍ってしまった……」
「そんなことはございません。槇寿郎様の剣は、今も昔もしっかりなさっています」
「藤姫………」
「鈍っているなら、また磨きあげれば良い事です。貴方が積み上げてきた功績は、私がしっかり覚えております」
槇寿郎は驚いた。
まるで瑠火が白藤の体を通じて言葉を紡いでいるように覚えたからだ。
「槇寿郎様」
「………」
「父上?」
「いや。何でもない。だが俺は一度柱を退いた身だ。出来ることはそう多くはない……」
パシン。
白藤が槇寿郎の頬を叩く。
「弱気になられるには貴方はまだ若いです。貴方の父君、寛寿郎様の言葉をお忘れですか?
『請われた際は、惜しみなく実を渡すべし』
貴方には御館様の傍に控えていて欲しいのです」