第67章 澱(おり)の中で$
煉獄親子が母屋へ戻り、離れに残された冨岡は白藤を寝室へ運び、出血部に手拭いを宛てがい、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
いつもならば立場の違う役割りだが、今回ばかりは俺が白藤の手助けをしなければと。
そんな時。
「…………ん……」
ようやく、白藤が目を覚ました。
「白藤……?」
何だ?
視界が、歪む……
噎せ返るような濃い藤の花の香りが立ち込める。
白藤を支えていた冨岡の視界が反転した。
倒れたのだと気付くまで数秒かかる程、頭の中に靄(もや)のようなものがかかっているように錯覚する。
「………」
冨岡の手に何かが触れた。
数秒かけてそちらに顔を向けると、先程まで意識を失っていたはずの白藤が冨岡の手に頬擦りをしていた。
まるで、猫が愛嬌を振りまくように。
その仕草に、たまらなく、気持ちが高まり出す。
鼓動が早くなり、呼吸が浅くなる。
白藤の視線がチラリと冨岡に向いた。
それだけで、欲が駆り立てられる感じがした。