第67章 澱(おり)の中で$
冨岡の言葉に、その温もりに……
期待してしまう。
泣いてもいいのかと。
縋って、ぐしゃぐしゃになるまで泣き崩れてしまいそうだ。
今だってもう、涙が止まらないのに……
「藤姫。良かったな」
「槇寿郎様、卑怯です……」
「今日中に泣いたのはお前だからな。賭けは俺の勝ちだな」
「「賭け?」」
冨岡と杏寿郎が同時に頭を捻る。
「き、気にしないで下さい!」
『賭け』は故人の思い出語り。
それぞれ思いの丈を吐き出して、泣いた方が負けの勝負だった。
槇寿郎は瑠火を。
白藤はもう二度と会えないであろう巌勝を。
それぞれに語っていた。
最初の日は槇寿郎が負け、後はずっと引き分けだった。
白藤が泣いたのは今日が初めて。
そう、いつの間にか、思いの丈は巌勝よりも冨岡の方が上回っていたことになる。
義勇さんは私にたくさんの『初めて』を教えてくれた人。