第67章 澱(おり)の中で$
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煉獄家で和やかな時間が流れる一方で、一人頭を抱えた男が一人。
その男の名はいわずもがな、この男、冨岡義勇である。
「…………」
煉獄の鎹鴉の要が言うには出産までは煉獄家で白藤を面倒見るとのことと、咥えてきた手紙には白藤の字で『心配しないで下さい』と綴られていた。
しばらく顰(しか)め面で手紙を眺めていた冨岡だったが、おもむろに立ち上がると顔を洗うために井戸に向かった。
一度頭を冷やそう。
ばしゃっ。
水浴びに近い勢いで顔を洗い、着替えを取りに寝室へ向かう。
『この寒空の中水浴びですか?』
白藤の声が聞こえた気がした。
寝室には冨岡の着替えが綺麗に畳んであった。
箪笥(たんす)の中身も整理してくれたようで下着から隊服まで綺麗に整頓されていた。
いつもなら、白藤が台所から声をかけてくれる時間帯だ。
彼女の居ない部屋を見て、様々な感情が渦をまく。