第65章 慟哭$
あぁ、寛寿郎の文机だ。
積み上げた書籍に紙を挟むクセがある所や短冊に書や和歌を書いていたり。
ほんのりと薄く微笑む白藤を見て、杏寿郎が声をかける。
「藤姫殿、どうかしたか?」
「寛寿郎様の書を見ていました」
「あぁ、祖父の字だな…」
「杏寿郎様には、どんなおじい様でしたか?」
「度々、槇寿郎と呼ばれることがあったりもしたが。父上が母上の死に打ちひしがれている時、俺と千寿郎を気遣ってよく外へ連れ出してくれたんだ」
「あの寛寿郎様が?」
「祖母に先立たれて祖父も同じような時があったと俺たちに話していた」
『杏寿郎、千寿郎。どうか、あれを赦してやってくれ』
杏寿郎の祖母に当たる女性は篝(かがり)といって、瑠火ほど短命では無かったが、子宝になかなか恵まれず、三十になってようやく槇寿郎を身篭ったのである。
心根が優しく、いつもにこにことしていたのを覚えている。
私が度々屋敷に訪れても、煙たがらずに出迎えてくれる奇特な方だった。