第65章 慟哭$
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「着いたぞ、藤姫殿」
「あぁ、はい……」
煉獄の送迎は早かった。
烈火の如くとはこのことだろう。
舌こそ噛まなかったが、振り落とされないように必死だったのと今更になって、吐き気が押し寄せてきた。
兄の帰宅を察知して、千寿郎が門前に出て来て、口元を押さえる白藤を見るや桶を持って来てくれた。
おかげで煉獄の羽織に吐かずに済んだのだから、よく気の付く千寿郎には頭が下がる。
「千寿郎、父上は?」
「書斎に。藤姫様、お加減いかがですか?」
「先程は失礼しました。大分楽になりました……」
「そうですか」
懐かしい煉獄の屋敷の雰囲気にふうと息を吐いていると……
ふと、数年前を思い出した。