第63章 春告げ鳥が鳴く頃に$ 不死川激裏短編
数年前、
夢の中で鬼に傷を刻まれた娘がいた。
鬼は娘にこう言った。
『その傷は目印だ』と。
目覚めた時、傷がそのまま残っていたのが娘にとっては薄気味悪く、目立たぬよう、布を巻いておいた。
数日経って、娘はまた夢の中で鬼に会った。
『ついに見つけた』と鬼は笑った。
あまりの不気味さに目を覚ました娘は床から這い出る様にして起き上がった。
家の中は妙に静かだった。
それと微かに錆びた鉄のような匂いが……
「動くなよォ」
娘は驚いた。
家族とも婚約者とも違う男性の声が背後から聞こえた。
カタカタと体が震える。
声を出そうにも息を吸うのが精一杯でヒューヒューとした呼吸音が、ばくばくとけたたましく鳴る心音が……
「来るぞォ。声、我慢な」
急に後ろから伸びてきた手に驚くも、声の主が僅かに緊張しているのが伝わる。
だって、私を支える腕が強ばっている。