第61章 藤姫の帰還
猗窩座も言葉に詰まった。
確かにそうだ。
十二鬼月でもない女鬼を相手に何を拘る必要がある。
たかだか昨夜一日閨を共にしただけ。
記憶を失った彼女に名前を与えただけ。
ただそれだけだ。
ただでさえ、藤の匂いがする妙な鬼を同族が嫌悪するならまだしも、好き好むとは……
「そいつは十六夜は特殊な鬼だからだ。そうだ、あの方に献上しよう」
「あの方とは?鬼舞辻無惨の事ですか?」
「はっ。貴様らのような人間には遠く及ばない存在だ、軽々しく名を呼ぶな!」
ドン!
「貴様ら、俺から逃れられると思うなよ?術式展開 破壊殺・羅針」
猗窩座の闘気が高まり、彼の足元に雪の結晶のような紋様が浮かび上がる。
「まずは貴様だ。女の柱には用はない。十六夜を離せ」
猗窩座と冨岡の視線がかち合う。
「猗窩座と言ったな。俺は水柱 冨岡義勇。覚えておけ、貴様を倒すのは俺だ」