第60章 谷底の社$
「今のお前は一人じゃない。助けてほしい時は声をあげろ。しっかりしろ、それでも水柱なのか?義勇」
ずっと会いたかった。
でも、面と向かって会えなかった。
お前を差し置いて柱だなどと、戯れ言だと……
名を呼んでしまえば、消えてしまう幻かもしれない。
謝らなければいけない。
たくさん。
今の今まで、ここに立ち寄れなかったこと。
あの日、お前の様に立ち上がり、刀を振るうことが出来なかったこと。
哀しみ、己の不甲斐なさ、様々な感情が冨岡の胸の中に渦を巻く。
どうして、いつもこうなんだ。
お前が目の前にいるのに、謝罪もお礼も言えない。
トン。
彼が俺の肩を掴む。
「いいんだ。俺のことはいい。お前は彼女のことだけ考えろ。お前にとって大事なんだろ?鴉を飛ばせ。本部に連絡だ」
宍色の髪の少年はあの時の姿のまま、冨岡の前でニヒっと笑って見せた。
「じゃあな、義勇」
「錆兎!…すまない……ぁ、ありがとう…」
「泣くなって。また来いよ」
ありがとう、錆兎……
俺はもう、逃げない。