第60章 谷底の社$
冨岡は感情のまま、外へ駆け出した。
ハッ、ハッ。
珍しく、息を乱して走る。
胸がつかえて、上手く息が吸えない。
やって来たのは、鱗滝の最終修練場。
門下生たちが岩を斬った場所である。
白藤、白藤、白藤……
どうして、あの時……
俺が、手を、離さなければ……
「~~……!!」
何だ?
聞き覚えのある声が……
バシン!
「しっかりしろっ!義勇!」
頬をぶたれた。
痛みは本物に感じる、頬がじんじんと熱い。
「---………」
冨岡は信じられない者を見た。
会えるはずが無いと思っていた。
彼には……
「義勇、泣くな。今しなきゃならないのはそれじゃない」
「…………………」
冨岡は言葉が出なかった。