第60章 谷底の社$
落ちてきたのは女だった。
見た目は人間同様だが、肌が白く、独特な気配がした。
人間ならば致命傷を負うであろう、山からの滑落。
その鬼はゆっくりと人の形を取り戻していく。
まず、目についたのは、変わった衣装を着ていること。
まるで自分たちが忌み嫌っている鬼殺隊を思わせる黒衣に、剥き出しの素肌。
彼女の外見は下弦の鬼に似ていた。
猗窩座は思案した。
彼女をどうするか、否か。
落ちてくる人間は何も男ばかりではない。
身重の女や餓死寸前の老婆、年端のいかない子供。
基本、猗窩座は女の肉は喰らわない。
他の鬼が旨いと絶賛する女の肉を彼は口にしようとしなかった。
その行動に別に意味があるかと言えば特には無い。
ただ漠然と女の死だけは弔いをしていた。
胸の内の穴を埋めるように……