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今宵、蜜に溺れてく

第1章 今宵、蜜に溺れてく



篠森 匠(しのもりたくみ)。


表向きはウチの遠い親戚ってことで産まれた時からウチで一緒に暮らしてる。
表向きは。
だけどほんとは、おじいちゃんが昔社の開発部門の博士に手を出して生ませた非嫡出児ってやつの、子供。
おじいちゃんとおばあちゃんは子供に恵まれなくて。
結局おじいちゃんの弟さん夫婦から跡取りとして養子を迎えた。
それがわたしのお父さん。
だから遠い親戚ってのも、あながち嘘ではないんだけど。
匠のお母さん、つまりおじいちゃんの実の娘なんだけど。
娘、ってことと、当時手癖の悪かったおじいちゃんの不祥事を公にしたくない御影家の根回しにより、正当な跡継ぎはわたしのお父さん、になったんだ。





「理緒ちゃん」



ガラリと、研究室の扉が開いて。
息を切らせた匠が入ってきた。


「呼んだ?」


ほんと、犬みたいに人懐っこい笑顔を向けながら。




「来たか、犬」
「犬?」
「先生っ、なんでもない。匠すごい汗、走って来たの?」
「理緒ちゃんが呼んだらどこにいたってすぐ駆け付けるよ」

ハンドタオルで額の汗を拭いていれば、ちゅ、と落とされる額への甘いキス。


「!!!」


ぼんって。
顔から火山でも噴火したように熱くなって。
額を押さえながら距離をとった。


「そーゆー甘酸っぱいの、他所でやってくれ」
「先生っ」
「何?さっき玉城先輩言ってた、データ入力?」
「おー、それ、纏めとけ。頼むな」
「えー?」
「お前がやんないなら、御影に頼むだけだし。おわっかなー、これ」
「…………鬼」

「匠……」

「もー理緒ちゃん、なんでこんな性悪鬼なんかの研究室入っちゃったの?」
「……それは、反省してる。ものすごく」

「………おい」



はぁ、とため息ひとつ。
んー、って大きく伸びを、して。
匠の顔つきが、変わった。



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