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今宵、蜜に溺れてく

第1章 今宵、蜜に溺れてく




「先生ー、理緒連れてきたよー」
「おー、サンキュウ助かるわ」


ガラリと研究室のドアを開ければ。
この研究室の責任者、柳先生は座っていた椅子を軋ませながらこちらを振り向いた。



「データ入力ですか?」
「んー、今日中に纏めといて」
「今日中……っ、です、か!?」
「そうそう。あと今日7時からの飲み会幹事も頼むわ」
「飲み会っ!?幹事!?」


なにそれ、聞いてないっ。


「だってお前、前もって言ったらあの犬っころにバレるだろ」
「犬って……」
「別にさー、匠くんいてもいーんだけどね、目の保養になるし」
「バカかお前、あの犬っころ来たら女の子みんな持ってかれちまうだろーが!!」
「……逆に先生、女の子持って帰っちゃだめですよー?」
「間違っても玉城には手出さねーよ」
「間違っても学生に手出さないでくださいね。ちなみに先生、親睦会です」
「あぁ!?女の子と飲むんだから、すなわち飲み会じゃねーか」


………いいのかなぁ。
この人先生やってて。


「匠くんいないところでたまには理緒も羽伸ばしなって。保護者も臨時休業して、楽しんじゃなよ」
「保護、者、ねぇ」
「匠くんは理緒に頼りすぎなんだって。そろそろ自分のことくらい自分でやらせないと」
「………」
「理緒の負担、増えるだけだよー?」

「………考えとく」

「ってことで理緒、おつよろー」
「え!?えぇ!?たまちゃんっ?」


逃げた。
うまいこと言って、逃げた。
裏切りものー。



「御影(みかげ)お前さ、院生試験、受けんだろ?」
「ぇ、あ、はい。そのつもりです」
「それってさ、あの犬っころのため?」
「ぇ」
「あいつがいるから?」

「━━━・・」


先生の視線の先。
窓の外を見れば。
友達と親しげに話す、匠の姿。


「ま、まさか!!ちゃんと経営学、学びたいし」
「なら親父さんの会社入っちまった方が手っ取り早い」
「………」
「遊びじゃねんだよ、お嬢ちゃん」

「わ、かってます」

「ならとっととあのバカ犬呼んでこい」


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