第1章 今宵、蜜に溺れてく
床に散らばった紙たちを集めてトントン、して。
匠は鞄へと、しまいこむ。
「俺たちも帰ろーか」
「匠」
「ん?」
「………なんで本気で試験、受けないの?」
「………」
匠ならきっと、余裕で飛び級だって。
「理緒がいないと甘いの補充できないもん」
「………え?」
「頭使うと眠くなるの、知ってるでしょ」
「いやでも、試験くらいじゃ匠、余裕で……」
「理緒」
ビクン
牽制。
詮索するな、って、こと。
「帰ろ?」
「…………うん」
笑顔で差し出された掌に、それを重ねる。
匠は嬉しそうに笑って。
そのまま手の甲へとキスをした。
「理緒は余計な心配、しなくていいからね?」
「………」
拒否を許さない、強い瞳。
鋭い視線。
「………うん」
わたしは。
匠と同じ学年で同じ講義にだって出たいし。
同じこと、したいのにな。
「理緒?疲れた?迎え呼ぶ?」
「ううん、ふたりがいい」
「またそーやってかわいいことゆーと、痛い目見るよ?」
「いいよ」
「理緒?」
「手加減されるより、ずっといい」
匠の本気が、知りたいから。
「なに?理緒、シたいの?」
「………うん」
「いや、冗談、だったんだけど……。昨日の今日じゃ体、辛いでしょ?」
「……匠は?」
「え」
「匠は、辛い?」
「いや、俺男だし」
「女の子から誘うのは、だめ?引く?」
「………っ」
困ったように、言葉詰まらせて。
匠が腕で顔を隠す。
「………ご、めん、やっぱり今の、なし」
困ったように……、困って、る。
あーあ。
また失敗しちゃった。
前のめりに掴んでいた匠の腕を、あわてて離した。