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今宵、蜜に溺れてく

第1章 今宵、蜜に溺れてく





「………理ー緒」
「んー?」
「匠くん」
「?」


たまちゃんの視線に合わせて窓から下をのぞきこめば。



両手で掌をぶんぶんと振る匠の姿。

「………」

なんとなく可愛くて。
窓へと頬杖付きながら小さく右手をふった。


「あーあ、前みて歩かないから」

そのまま匠は前方から歩いてきた学生と正面からぶつかって。
たまちゃんの呆れた声にくすりと小さく笑みを溢し。
今度はひたすら謝る匠の姿を見下ろす。


「………ふふ」


そして再び、懲りもせず手をふり続ける姿に。
愛しさが溢れる。
勝手に笑みが溢れる。


愛しいなぁ、もう。


「ねぇ、これで付き合ってないとか言っちゃう?あんたたち」


窓の壁へと背中を預けながらため息を吐き出すたまちゃんに、1度視線を向けて。


「………さぁ?」


すぐにその視線は、笑みとともに匠へと向かう。



「なにその、意味深な間」


「別に、なんでもないよ?」


付き合ってるとか、恋人とか。
どーでもいい。
わたしは匠が好きで、匠にこんなにも愛されてて。
それがすべてだ。
肩書きなんて、はじめからいらなかったんだ。




「………匠くんてさ、この前ちょっと雰囲気違かったよね?」


「…………」



覗き込むように、たまちゃんの瞳が小さく揺れる。
おっきいきれいな目。
人を疑う時でさえ、きれいな顔するんだなぁ。


「理緒は酔っぱらってたし、知らないか」
「あー、はは」


乾いた笑い。
誤魔化し。



おっきな黒い目にうつった少しだけの熱。
本人も気付かないくらいの、小さな光。
見逃さない。
こんなとこだけ敏感な自分が嫌になるくらい。


「匠は、匠だよ?」


気付かれないように、たまちゃんへと変わらない笑顔を、向けた。



「………だよねー」
「うん」


上辺だけ、匠を見てればいい。
作られた匠。
演じてる匠。
みんなみんな、騙されてればいい。



匠を知るのは、わたしひとりで、いい。





「理緒ちゃん」





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