第1章 今宵、蜜に溺れてく
「もー、全然顔の火照りが取れないよ」
トイレの洗面台へと手をついて。
鏡の中の真っ赤な自分にため息。
「………ほんと、熱い」
………あれ。
なんか、暑すぎてクラクラする?
なんか急に、視界までグラつくし。
なんだろ。
なんか急に。
気持ち悪い。
「………っ」
心臓、早い……っ
なにこれ。
これ。
━━━━━さっきの……
さっき飲んだ甘いの、あれもしかして。
あれ、お酒?
全然アルコールの味なんてしなかったのに。
でもこれ。
この、症状。
ドクン
どーしよう。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
起き上がれない。
こんなとこ、もし誰か入ってきたら。
お店にも迷惑、かけちゃう。
どーしよう。
焦れば焦るほどアドレナリンが体を巡って。
アルコールの吸収速度があがる。
ドクンドクン、て。
心臓が激しく血液を送り出す。
「━━━━匠……っ」
「理緒!!」
バタン、て。
勢い良くドアが、あいて。
「……たく、み?」
「うん」
座り込むわたしを抱き締める、匠の匂い。
「なんで……、ここ、女子トイレ」
「理緒のためなら犯罪者になっても構わないよ」
「………っ」
「なんてね。たまちゃん先輩が外で今誰も入って来ないように見張りしてくれてる」
「たまちゃん?」
「うん。たまちゃん先輩が、理緒もしかしてお酒飲んだかも、って」
「ぇ」
「立てる?気持ち悪い?吐けそう?」
「………気持ち、悪い」
「うん。吐けそうなら吐いちゃおうか、おいで」
ヨイショ、って。
わたしを起こしながら、匠はトイレへと誘導して。
そのまま座り込むわたしの背中を、優しく撫でてくれた。
「大丈夫だよ、理緒」
トイレで盛大に嘔吐にのざえるわたしを。
匠はいやな顔せずずっと優しく背中をさすってくれていて。
気持ち悪さと恥ずかしさで。
涙が溢れた。