The end of the story 【ツイステ】
第4章 stolenスイーツ!
風邪をひくと人ってあっさり死んじゃうのは私も身に染みて分かっている。近所のお爺さんが風邪をこじらせて別の病気を併発して亡くなったのは聞いたことあるし。私も他人事として言えない。
人間である以上、いつかは死んでしまうから。
行く当てもなくふらふらと歩いて、ベンチに座ってこちらを見下ろす月を見上げた。こういう時、ここって異世界なんだって実感する。
だってあんなに小さいはずの月が、不思議なくらいここでは大きく見える。
私、帰れないのかな。
ぎゅっと手を握って俯いた。モヤモヤとした気持ちが頭の中を回っていて、あんなに大嫌いだと思ってたあの場所が恋しいって思うなんて……
「本当に帰りたい、のかな?私……」
ここにいる時間が楽しくて、いつかはなくなる居場所なのに。終わる日がくるとわかっているのに舞い上がっていたなんて、冷静になると苦しくなる。
大変なこともいっぱいだけど、居場所のない世界に帰るよりここにいた方がずっと苦しくなくて。
鼻の奥がツンとして視界に映る手がぼやけてくる。
捻れた箱庭に依存し始めている。
少女がそのことに気づくにはまだ少し早い。
そんな思考に行く前に上から何かの気配を感じて顔を上げた。
「……何やってるんだ?こんな夜中に」
「えと、誰……ですか?」
月を背景に美しい長髪が映える人が立ってた。足音がわからなかった。それくらいぼーっとしていたのだろう。ごしごしと目を擦るとこちらをじっと見ていることに気づいた。
「俺か?俺はジャミル。ジャミル・バイパーだ。君は見慣れない顔だが、新入生か?」
「そう、です」
暗闇の中でも分かるけど、やっぱり顔の整った人だなぁ。褐色肌で異国の雰囲気を感じる。
私にとってはどの国も異国か。というか異世界だけどさ。
「ふーん。で、こんな夜中に何をしてるんだ?今日は冷えるから早く寮に戻ったほうがいい」
「あ、散歩中なんです。目が冴えちゃって眠れないから歩き回ってればそのうち眠気が来るかなって思って」
「なるほど……なら、うちの寮に寄っていかないか?」
「へ?」
突然のことにきょとんと首を傾げる。そんなこと言われても許可なく入っていいのだろうか。
まだ他の寮に入ったことないから申請がいるのかは知らないけど。
そもそもこんな夜中にいきなり訪ねるなんて失礼だろう。