The end of the story 【ツイステ】
第8章 Quiet story of one chapter
気づけば、腰に先輩の手があって抜け出せなくなっていた。
動こうにも思ったより力が強く支えられていて出ることができなくなっていた。
リドル先輩の細い指が頬の輪郭をなぞるように添えられて、ついくすぐったくて身を捩る。
う、顔が近い……。
薪を入れたばかりの談話室は寒いはずなのに指先から先輩の体温が伝わってきて、じんわりと熱が移るのを感じる。じっと私を見つめる目が真剣なもの。吐息まで感じられるほど近くて、震えながら目に涙が浮かぶ。思わずぎゅっと目を閉じた。
「……キミ、震えてるよ。ねぇ、ボクだって男だよ。これで力じゃ勝てないことお分かりかな?」
「は、はい」
「ふふ。よろしい」
そっと私の頭を撫でる先輩の手は酷く優しいもので変に意識してしまった自分が恥ずかしい。
……あの時、一瞬キスされるかと思った……なんて。
想像してしまうと余計に体が熱くなる。リドル先輩はそんな意図なかったってわかるのに。
「怖がらせちゃって悪かったね。でも、ここは男子校だ。自衛は必要だよ」
「自衛……」
「そう。うちの一年とモンスターが一緒にいるとはいえ、いつも一緒に行動してるというわけにもいかないだろう?この学園の生徒は頭の痛いことに柄の悪い奴が多い。キミに向けられている好奇の目がいつ悪い方へ傾くかはわからないんだ。魔法の使えないキミは少しでも危険に気づけるようにならなくてはね」
柄の悪い生徒……それは短い間だが何度か絡まれているので納得した。
「分かりました。だからその……そろそろ離れてくれると……」
そう、物理的な距離はまだ変わってない。
背の近い私たちは必然的にそうなってしまうのだが、それでもちょっと近すぎる。
「あぁ。すまないね」
先輩が私から離れた瞬間、ずっと支えられてたから上手く力が入らずグラリと体が揺れる。まずいと思って立ち直そうとしたら自分の足が引っかかり、派手に転びそうになって咄嗟にぎゅっと目を閉じた。
「!?監督生!」
「っ!」
鈍い音を立てて転び、体は小さな痛みを訴えてきていたが、それどころでは無い。
ふにっと口に何か当たった気がして、顔を上げるとさっきの比じゃ無いくらい顔が近くて。グレーの瞳と目が合った瞬間、私の体はボッと火がついたように熱くなる。
「あ、あ……う。その……」
私は思いっきり転んでそのままの勢いでリドル先輩を押し倒していた。