The end of the story 【ツイステ】
第8章 Quiet story of one chapter
【マロンタルト】
いつもはスパイシーな香りが漂う調理室では今日は甘ったるい匂いが部屋に充満していた。
「次はタルト生地を伸ばして型に乗せるんですよね?」
「あぁ。破かないように気をつけろ」
「それにしても、本当に手伝ってくれるとは思いませんでした」
「君が俺に頼んだんだろう?カリムから突然電話がかかってきた時は何事かと思ったぞ」
またカリムが何かやらかしたのかと思ったじゃないかと呟く先輩に謝った。なんかすみません。
カリム先輩ってそんな言われるほどいつもやらかしてるのか……うちにはグリムと問題児コンビがいるし、その苦労お察しします……。
ジャミル先輩の言葉でこの間の出来事を思い出していた。決闘の話が決まってから結局タルトを返せていないのを思い出して私の知ってる中で料理のできそうな先輩にお菓子作りを教えてもらいたいとカリム先輩に声をかけたのだった。
「それにしても俺じゃなくてトレイ先輩に教えて貰えば良いんじゃないか?あの人ならいつもパーティー用のお菓子を作ってて俺よりも手慣れてるだろ?」
「トレイ先輩にも渡すのでそれはちょっと…」
「ふぅん?ま、いいか。そのかわり、ちゃんと次の宴の時手伝ってくれるんだろうな?」
「はい!そういうことになりましたから」
タルト生地をオーブンに入れながら返事を返した。
魔法のつかえない私ができることといったらやっぱり雑用くらいだ。
「…なんでもするからなんて頼むのはダメだぞ。俺もそうだが、オクタヴィネルの奴らがそこにつけ入られる」
「オクタヴィネル?」
「特にそこのリーチ兄弟と寮長のアズールの契約には警戒した方がいい。一度目をつけられると逃げるのは難しい」
確か慈悲の精神に基づく寮だったかな?契約というと人魚の話を思い浮かべるなぁ。
あの金色の契約書を突きつけてサインさせるシーンは結構怖かった印象がある。
「分かりました。でも、私魔法なんて使えないですし……正直目をつけられそうにはないですが……あとなんでもするって言ったのはジャミル先輩は優しいのを知ってるから言っただけですよ。私だって知らない相手にそんなこと言いませんって」
「……それもそれで複雑だ」
それに俺は言うほど優しくなんてないと呟く低い声は扉を蹴破るような勢いでドアが開いた音でかき消された。思わずびくりと肩が飛び上がる。
一体何事?