第7章 衝動と反応と【赤葦京治】
『…京治くん、もしまたどこかで会ったら、また、ゆっくり話そうね。
じゃあ、行くね! バイバイ! …わ!』
手を降りながら身体の向きを変える穂波ちゃんの手首をぐっと引き寄せた。
「…ごめん。 …やっぱりまだ離れたくない」
『………』
いきなりこんなことをしてしまっているのに、
目の前にいる穂波ちゃんはいやな顔を少しも見せず、
じっと俺を見上げ、目を真っ直ぐに見つめる。
思わず抱きしめてしまう。
「…もっと知りたい。 もっと一緒にいたい」
身体をかがめ、耳元でそう伝える。
…何を言ってるんだ俺は。何をしようっていうんだ。
穂波ちゃんは俺の胸に手添え、背を反らせる。
胸から上が俺から離れる。
…だよな、当たり前だ。無理矢理にも程がある。
『京治くん?』
「…ごめん」
顔を近距離で覗き込むようにされる。
『謝らなくていいよ。わたし、嬉しい』
そう言って俺の首に腕を巻きつけてくる。
…え? 待てよ…
思考が次へと進むよりも前に、俺の身体が勝手に動いていた。
さっき、手首を掴んでしまった時と一緒だ。衝動が抑えられない。
顔を傾け、唇を、重ねていた。
初めてのことでなにもわからない。
そっと、触れるだけの口づけ。
初めて触れる、他人の唇。
柔らかく、暖かく、どこか甘くさえも感じる。
東京駅の丸の内改札口。
多くの人が行き交うど真ん中で、
今日知り合ったばかりの女性を抱きしめ、口付けている。
そして穂波ちゃんは首に絡めた腕をぎゅっとしながら
俺の唇にやわく吸い付くようにしてきた。
…身体がゾクゾクする。
小さく チュッと音をさせて唇がゆっくりと離れていく。