第1章 聞こえない声、見えない心(九番隊)
そんな中、東仙隊長は藍染隊長とともに謀反を起こした。
瀞霊廷を裏切り、虚圏へと行ってしまった。
その時、彼女は隊舎で一連の旅禍騒動の報告をまとめていた。
彼女がそれを知ったのは日が明けて、俺が隊のみんなに詳細を伝えた時だった。
俺の話を聞きながらみんなの口からは悲嘆の声が上がる。
しかし、彼女だけは声も上げられず涙を必死に堪えながら俺を見つめていた。
彼女の中にもいろんな感情があるだろう。
それを人のどれほども外へ出すことができない。
それはどんなに辛いことだろう。
どんなに苦しいことだろう。
彼女の想いなど周りの者が酌んでやらなければ知られることもなく、時と共に流れていくのだろうか?
俺の話が終わって、皆がその場を去っても彼女はその場に立ち尽くしていた。
「お前も隊長にはよくしてもらっただけに辛いよな」
そう言って俺は彼女の頭を撫でてやった。
そこで初めて彼女は涙を流した。
髪の毛と同じ栗色の瞳から大粒の涙が零れるのは、泣いている本人には悪いが、とても美しいと思った。
もちろん俺は乱菊さんのようなグラマラスな大人の女が好みなのだが、美しいと思うのはそうゆう感情とは別のものであると自分に言い聞かせた。
「お前の辛さ、わかるからよ」
正直、俺だって辛い。
この隊に東仙隊長の存在は大きすぎた。
しかし、その隊をこれからは副隊長である俺が引っ張っていかなければならない。
その俺がいつまでも隊長のことを引きずっててはいけないのだ。
俺がしっかりしなくてどうする。
そうやって昨日の晩に俺は自分を奮い立たせ、そして今日俺はみんなの前に立った。
ただ、彼女にはそんなこと強要できない。
彼女には隊長がいなくなってしまったことを悲しんで、たくさん泣いて、乗り越えていって欲しいと思う。
そうゆう意味を込めての言葉かけだった。
しかし、彼女は頭を大きく横に振った。
何回も何回も。
隊長がいなくなったことが信じられない。
『隊長に限ってそんなことあるはずがない』という彼女の声に聞こえた。
「信じられないのもわかる。俺だって未だに隊長が裏切ったなんて信じられないくらいだ」
それでも彼女は力無く首を振り続け、涙を流す。
俺ではその涙を止めることができない。
だから、俺は隊長の目を覚まさせて尺魂界に連れて帰ると誓ったんだ。