第1章 聞こえない声、見えない心(九番隊)
そうして挑んだ虚圏との戦い。
結局、俺は東仙隊長を連れ戻すことができなかった。
隊長は虚化までして俺や狛村隊長を殺そうとした。
けれど、最後の最後で俺らは分かり合えるはずだった。
はずだったのに…
もう、それは叶わない。
東仙隊長はもういない。
それを彼女にどうやって伝えればいいんだ。
また彼女が悲しむだけだ。
また、彼女が涙を流してしまう。
しかし、俺は伝えなければいけない。
それが俺の務めだから。
そして彼女はまた泣いた。
ギリギリまで我慢した一粒が零れると、あとは次から次へと。
こんなに悲しそうに泣く女を俺は見たことがない。
女が泣いてこんなに心打たれたこともない。
「ごめんな…隊長、連れて戻れなかった」
彼女の肩に手を置きながら言う。
彼女はまた首を振る。
信じられない、信じたくないと。
こんなに小さな彼女だ。
きっとこの大きな悲しみに押しつぶされて、立ち上がることはできないだろう。
誰かの助けがなければ。
なのに俺には、どうすれば彼女の悲しみを取り除けるのか、どうすれば彼女の中の隊長を薄められるか、検討もつかない。
「本当にすまねぇ…」
俺はなんて情けない声を出しているんだ。
俺が支えなければいけないのに。
俺が導いてやらなければいけないのに。
なのに、こんな彼女に縋るような声を出して。
それでも彼女は首を振り続ける。
そして、彼女は肩に置いた俺の手に手をかける。
手が振り払われる、そう思った。
しかし、彼女は俺の手を取って、ゆっくりと自分の胸の前まで持っていった。
そして俺の手のひらに自分の指を優しく押し当てて文字を紡ぐのだ。
そう、隊長にしていたように。