第1章 聞こえない声、見えない心(九番隊)
【ちがうんです】
「何が違うんだ?」
【私がかなしいのはふくたいちょうがたいちょうをつれもどせなかったからじゃないんです
たいちょうが死んでしまったからでもありません】
「じゃあ…」
なんで?と問う前に彼女の指は動き始める。
【私はふくたいちょうがかなしめないのがかなしいです】
「え・・」
【たいちょうを失っていちばん辛いのはふくたいちょうのはずなのに
ふくたいちょうはふくたいちょうだから
みんなのためにかなしみをころして
きぜんとふるまって】
「・・・」
【じゃあふくたいちょうのかなしみはどこに行くのですか?
そのかなしみはだれが受けとめてくれるのですか?
だから私はふくたいちょうのためにかなしみます
ふくたいちょうが泣けないなら私がその分泣きます】
「…じゃあ、お前はあの時も…隊長が虚圏に行ったときも俺のために泣いてたのか?」
彼女はこくんと首を縦に振った。
そして、その勢いで俺と目を合わせると愛らしい唇を声もなく動かす。
しかし、俺には聞こえた。
『悲しんでもいいんです』と言う声が。
こいつには俺でも気付かなかった俺の心が読めているらしい。
逆に俺はこいつの気持ちをわかったような気になっていただけで全然わかっていなかった。
俺は彼女の小さな体を優しく包み込む。
「すまねぇ…あと、ありがとな」
どうせ隠したってバレてるんだ。
だったらこの際どんな情けない言葉も態度もこいつには出させてもらおう。
こいつの涙は俺が拭えばいい。
彼女の顔を覗き込むとまだ涙を流してはいたが、顔を赤らめ表情は恥ずかしがっているのか困ったように笑っていた。
俺は吸い寄せられるようにキスをした。
そうゆうつもりじゃなかったが、彼女の涙はぴたりと止んだ。
この二人が九番隊の名コンビになるのはもう少し先のお話。