• テキストサイズ

その風は想いを紡ぐ(弱虫ペダル短編集)

第1章 Eyes on me.(手嶋純太)


深いネイビーの瞳から目が離せない。
吸い込まれてしまいそう。

「さぁて、言いたい事も言ったし片付けて帰るか」

立ち上がって自転車を起こす手嶋くんは部室へと向かう。
私もその後を追わなきゃなんだけど、まだ立ち上がれずにいた。

2、3歩歩いたところで私を不思議に思った手嶋くんが振り返る。

「さっきのは、気にしなくていい」
「…!」

「お前はマネージャーとして今まで通りサポートしてくれりゃそれでいい」

そう言う手嶋くんの笑顔は少し悲しそうに見えた。

そんな顔しないで、

私は、

私はずっと、


「手嶋くん…っ!!」

「!」

突然大きな声を出して変に思われたかな。
ううん、そんなの気にしない。
大きな声で言わなきゃいけない事が私にはまだあるんだから。

「私、ずっと…1年生からずっと、見てたよ!手嶋くんを、手嶋くんだけを!」

苦しくても歯を食いしばって、
倒れそうでも踏ん張って、
前に進み続けてきた貴方だけを見てきた。

「………」
「だから今度のインターハイもちゃんと見てる!手嶋くんを、一番見てる、」

手嶋くんの顔が、ほんのり赤くなった気がして、私は自分がすごい事を大声で叫んだんだって気付かされる。

気付いてしまったら恥ずかしくて堪らなくなってしまった。

「い、以上です!!…じゃあ!私…先に帰るね…!」

呆然としている手嶋くんを追い越して部室に入ろうとドアノブに手を掛けた瞬間、その手の上に彼の手が重なる。

「…っ」

そのままドアノブから剥がされて引き寄せられてしまった。

「言い逃げするんじゃねーよ、馬鹿野郎…」
「て、て、手嶋っく……!」

ダイレクトに感じる彼の体温と香り。
耳元で囁かれた声は感覚を痺れさせた。

「俺も…お前の事ずっと見てたよ、頑張り屋」
「それは…手嶋くんの、方だよ…」

彼の腕がするりと背中に回ってぎゅっと強く抱き締められる。

「見ててくれるっつーならインハイまでにもっと努力しねぇとな」

そっと私を解放すると、手嶋くんはもう一度自転車に跨った。

「もう一本走ってくる!待ってろよ!送るから!」
「うん…!気を付けて、いってらっしゃい」

走り出した手嶋くんの後から風が吹き抜けた。
夏が近い、熱を持ち始めたその風は私の頬を冷ましてくれはしないようだった。


next→Teshima side.
/ 26ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp