第1章 Eyes on me.(手嶋純太)
Teshima side.
小野田を初めて見た時に思った。
ああ、去年のアイツに似ている。
青八木の後ろで緊張した顔をして地面を見つめていた彼女。
なのに、ロードバイクを見る時はキラキラと目を輝かせて嬉しそうに笑っていた。
そんな彼女に俺は一瞬釘付けになった。
ロード初心者だって言ってた。
部員たちに迷惑を掛けないように努力しないとってよく笑ってたよな。
給水の渡し方、テーピングの巻き方。
メカニックの事まで古賀に聞いてたな。
どれだけ努力してたか、俺はずっと見てたから知ってんだ。
合宿で俺と古賀のインハイの出場権をかけた勝負の後、
いつも通りにしていたけど。
俺、ホントは知ってんだ。
周りがみんな引き上げた後、ボトル洗いながら一人で泣いてたろ。
消えそうなくらい小せぇ声で、良かったって。
そう言って泣いてんの見ちまったらさ、飛び出してって抱き締めたかった。
泣いてくれてありがとうって言いたかった。
でもお前が一人で泣いてたのは、古賀の努力もお前はちゃんとわかってたからだよな。
頑張り屋で、優しい。
その目が俺だけを見てくれたら。
そんな想いがチリつき始めた瞬間だった。
「私、ずっと…1年生からずっと、見てたよ!手嶋くんを、手嶋くんだけを!」
すげー嬉しかった。
インターハイの舞台で、全部出し切るから。
そしたら、ちゃんと言わせて欲しい。
合宿で言えなかった『ありがとう』と、
もう一つの言葉を。
end.