第1章 Eyes on me.(手嶋純太)
「なっ…!何、それ……」
赤くなっているであろう顔を隠すように視線を地面に向けて誤魔化す。
するとまた小さな笑い声が聞こえた。
手嶋くんの目は、いつも優しい。
才能のある後輩たちを見る目も温かいんだ。
羨んだり妬んだり、そんな感情は全部自分の中に飲み込んで、後輩の事もちゃんとすごいって認められるんだ。
アイツらと同じ事だけしててもダメなんだって手嶋くんはいつも言う。
「さて、もう暗くなって来たし、送るから部室で待ってろよ」
ほら、そうやってまた。
こんなに努力が出来て、周りの人にも優しくできる人私は貴方以外知らないよ。
「て、手嶋くん…!」
「?」
立ち上がりまた自転車に跨った手嶋くんの背中に声を掛ける。
「わ、私は手嶋くんの事!凡人だなんて思ってない、すごい人だっていつも思ってる…!」
顔は伏せたままだけど、手嶋くんに向けて精一杯の気持ちを送る。
青八木くんと同じ中学だったってだけで、1年生の時にロード初心者なのにマネージャーになった私。
そんな私に対しても彼は丁寧にロードの事を教えてくれた。
だから私もその気持ちに応えたくて必死に勉強した。
去年、出られなかったインターハイ。
その悔しさをさらに力にかえて頑張っているのを私は知っている。
そしてついに掴んだインターハイ出場者の証のチームジャージ。
青八木くんと手嶋くんが出られると分かった時は嬉しくて、誰もいない水道の前で一人で泣いた。
「、俺は最高の走りを見せてぇんだ。それだけだ」
「……そっか、そうだよね」
3年間の集大成だもんね。
「私も!しっかりサポートに入るからっ!寒咲さんにはロードの知識は敵わないけど…流石に三年目だし、しっかりやるから、「そこはさ、誰に見せたいのか聞くところだろ?」
「え…?」
変わらずに笑っている手嶋くんが変わらずに私を見てそう告げた。
「俺はさ、…お前に見てて欲しいんだよ。1年の時からずっと俺の走りを見続けてくれたお前に!」
「て、手嶋くん…」
その後の言葉が続かない私の頭にポンと手嶋くんの手が乗せられた。
「困るなよ、別にお前だけを見てたわけじゃねーって言いたいんだろ?それはわかってる、でも俺は」
胸が高鳴り始めて、手嶋くんから目が離せない。
「お前にちゃんと見てて欲しいんだ」