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その風は想いを紡ぐ(弱虫ペダル短編集)

第1章 Eyes on me.(手嶋純太)


ガシャン、と自転車の倒れる音が聞こえて、部室の中でタオルをロッカーにしまっていた私は扉へ目を向けた。
窓から見える空はもう茜色よりも闇の方が深い。

(あ、もうこんなに暗い…ってそうだ!)

空の色に一瞬気を取られて外から聞こえた自転車の音を忘れてた。
慌てて扉を開けて外に出ると予想外の人が地面で仰向けになり、荒くなった息を整えようとしていた。

「手嶋くん…?!」
「っはぁ…っはぁ…!…っ!?おま…っえ…まだ…っ…」
「あぁ!いいよ、起き上がらなくて…!」

慌てて部室に引き返して、さっきしまったばかりのタオルを一枚手に取り手嶋くんの元へ戻り手渡した。

「っはぁ…はぁ、さんきゅ…」

息も整い切らないのにヘラリと笑って見せる彼の顔にきゅ、と胸が締め付けられる。

ゆっくりと、徐々に呼吸が整ってきた手嶋くんは上半身を起こしてヘルメットを取った。
そして私が渡したタオルで汗を拭った。

「てっきり鏑木くんかと思ったよ」

合宿後から鏑木くんが一番最後まで練習している日が多いと青八木くんがこの間こっそり教えてくれた。

「はは、残念。俺でした」

そう言って笑う手嶋くんに、あぁほら、また。
胸が苦しい。

私はこっそりと一度深呼吸をして彼の隣に座り込む。

「制服で座るとスカート汚れるぞ?」
「いーの、大丈夫!…手嶋くん、てっきりもう帰ったのかと思ってたよ」
「いや、インハイまでに俺はやらなきゃなんねぇ事が多いからな。それも、他の奴よりもてんこ盛りにだ」



手嶋くんは、よく自分の事を弱い奴だって言う。

私からみたら、そんな事全然ないのに。



いつも真っ直ぐに努力を重ねて、後輩たちへの気配り心配りだって怠らない。

(そんな手嶋くんだから、私は)

その先の言葉を心で思うことすら飲み込んで私は彼を盗み見る。

盗み見た、筈だったのに。

「…っ、」

汗で濡れた前髪を手で掻き上げながら微笑む手嶋くんと目がバッチリと合ってしまった。
そのまま、瞬きも忘れるほど釘付けになってしまう。

「えっ!…あ、えっと…?」
「く…ははっ!いや、悪い。こっち向いてくれっかなって思って」

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