第5章 今日もあなたの音を待つ(荒北靖友)
それから何日か経った頃。
は本の入れ替えデータをまとめる仕事で放課後いつもより遅く残っていた。
今年度は入れ替えた本が多い。
本好きとしては嬉しい限りなのだけど、データとしてまとめる数も増えたのは少し厄介だった。
自分一人のために残ってもらうのも悪くて、作業を終えた他の委員は帰してしまった。
(今日は…見られなかったな……)
パソコンのキーボードを打つ手を止めて窓を見やる。
もうすぐ日暮れだ。
もう自転車競技部の練習も終わってしまっただろうか。
同じ頃、の予想通りに練習を終えた自転車競技部の部員たちは各々片付けに入っていた。
「お先ィ」
制服に着替えた荒北は鞄を掴んで部室を後にした。
(今日は顔出してねェじゃねーの…って、だからなんだっつんだよ)
自分で自分に突っ込みを入れてしまう。
気にしないようにしても気になってしまうのだ。
荒北の足は自然と図書準備室の見える裏門の方へと向かっていた。
流石にもういねェか。
そう思いながら来たはずなのに。
「…あ?」
窓から漏れる明かりが見える。
足を止めてしばらくその明かりを見つめていた。
いや、まさか。
残ってやがンのか?
いや、アイツとは限らねェだろ。
他のヤツかもしんねェじゃねーか。
「クソが…!」
それでも確かめたい。
自分で確かめなきゃ気が済まねェんだ。
校舎へと引き返して靴を脱ぎ捨てる。
鞄を放り出し、上履きを突っ掛けて階段を駆け上がった。
図書準備室前まで走った荒北はまだ明かりの付いているその扉を勢いのままに開けた。