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その風は想いを紡ぐ(弱虫ペダル短編集)

第5章 今日もあなたの音を待つ(荒北靖友)



「先輩、何か忘れもので……!?!?」

最後に出た先輩が忘れ物でもしたのかと思った。
まさか、全く予想もしてなかった人物が扉を開けたなんて。

後3冊、本のタイトルを入力したら終わり、そんな時だった。



「…やっぱいンじゃねーか、誰だいねェなんて思ったヤツは!…俺か、はっ!!バカが…」

「……あ、ら…北、先輩………?」

悪態を吐きながら入ってきたのは紛れもなく自転車競技部3年、荒北靖友。
その人だった。
少し息が上がっている。
走ってきたのだろうか、図書委員の誰かに急用でもあったのだろうか?

の頭を色々な考えがグルグルと巡る。


「…お前、名前は」

「わ、私…?ですか…?2年のです…、です…」

「そーかよ、残ってんのがお前で合ってて良かったぜ、ったく…違うヤツだったら走り損になるとこだったぜ」
「走り…??」
「」

「……!っはい、」

荒北の言っている言葉の意味は全然わからなかったが、一つだけ確かなことがある。



3階のこの図書準備室の窓から、ずっと密かに憧れていた人が目の前にいて自分の名前を呼んだのだ。

「お前、毎日こっから誰を見てんだよ」
「えっ…」



知られていた。
気付かれていた。

恥ずかしい、どうしよう。誤魔化す…?

「………」

いや、この人に誤魔化すような事は言いたくない。

「東堂か?新開か?真波…?辺りじゃねーの」
「…っいえ、私は…っ」
「は、まさか福ちゃんかよ…!」

本当の事を告げる前に次々と出て来る別の人の名前。

どうしよう、どうしよう、違います…!


「……っ?!」
「ちが、違います…っ」

咄嗟に出た両手。
のその手は荒北の口を塞いだ。
驚いたのは荒北の方だ。
柔らかな小さな手が自分の唇に触れている。

熱が顔に集中してくるのを感じた。

「違います…」
「…かっ、たから、手ェどけろ」
「っあ、す、すみません…!あの、ごめんなさい。私がいつも見てたの、先輩なんです」

「は、」

「荒北先輩、なんです…」

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