第4章 ※王者の裏側(新開隼人)
コンコン
ガチャリ
新開隼人はいつも必ずこの鳥籠の扉をノックする。
そして扉開けて、と目を合わすと必ずこう言う。
「良い子にしてた?小鳥ちゃん」
指で作ったピストルの銃口をに向けて撃ち抜く。
キザでカッコいいその仕草に新開ファンの女生徒はいつも顔を赤らめる。
しかしにとっては違う。
(あぁ、今日も)
「良い子に、してたよ…新開くん」
(この人に食べ尽くされてしまうのか)
新開はドスンとベッドに座るととても自然にの肩までの髪に手を伸ばしクルクルと指で遊び出す。
「いやぁ、今日の練習も中々濃くてさ」
「そう、なんだ」
「2年も1年もしっかり育って来ててスプリント勝負も油断出来なくなりそうだよ」
そう言って笑う新開の言葉を頭の中でリピートする。
油断出来なくなりそうだ、と言う事はまだ油断出来ていると言う事。
箱根学園最速と謳われているこの男の凄さはやはり本物なのだろう。
「…インターハイ、観てみたいなぁ」
「…、おめさん」
「あ、いや、違うの、なんでもない」
不意に口から出た願望を必死に否定する。
立場はわきまえている。
自分は彼らの性のサポート役だ、決して表舞台に出てはいけない。
それでも観てみたい。
彼らの練習やレースの話を聞く度に自分の目で観られたらどんなに良いかと想像してしまう。
目にも留まらぬ速さで駆け抜ける新開。
軽やかに山を駆け登る東堂。
荒北のギリギリを攻める走り。
そして福富のトップゴールの瞬間。
そんな事を考えるとつい笑みが溢れてしまう。
「そうだな…インターハイは難しくても何か別のレースを観られるように俺が寿一に掛け合ってやるさ」
「本当…?!」
「あぁ、いいぜ。でも」
「……っん」
不意に両頬を掴まれ唇を重ねられた。
「その目に、俺しか映さない約束が出来るならだ」
「!!」
新開の目つきが変わる。
内なる鬼が現れた証拠だ。
今日の引き金はなんだろう。
あぁ、そうか、私がさっき…
福富くんや荒北くん、東堂くんの事を考えて笑ってしまったからだ。